カテゴリー: キングダム短編

舞乙女(慶舎)

 秦の大后は以前、邯鄲の宝石と呼ばれていたらしいが、ならば今舞台の上で舞い踊る中華・名字中華・名という人物は、なんと呼ぶのが相応しいだろうか。花や蝶ではありきたりだ。値する形容詞が思い浮かばない。
 とにかく、私は両手に扇子を華やかな持ち、ひらひらと踊る中華・名の姿に見とれていた。真っ白な肌に真っ赤な紅が映え、舞うたびに艶やかな髪も踊る。

「珍しいですね」
「…珍しい、とは?」

 李牧さまはとぼけるように笑い、視線を舞台の上に向ける。どうやら私は見とれすぎていたようだ。李牧さまは私の感心が、中華・名にばかり注がれていることを、とうに見抜いていらっしゃった。

「そんな顔をしなくても。私は慶舎が女性に興味があってよかった、と安心しましたよ」
「私は男色の趣味があると話したことなどありません」
「そうでしたか? ああ…カイネ、慶舎に酒を」

 李牧さまの付き人であるカイネは、既に酔いつぶれていて、座布団の上に倒れ込んでいる。叩き起こせばいいものを、汗で貼り付いた前髪を優しく撫でると、私の盃に酒を注ぎ始めた。
 李牧さまにそのようなことをさせるわけにも行かないが、止めるのも失礼かと考えた私は、ありがたく李牧さまのご好意に甘えることにした。
 盃に口をつけ、横目で中華・名の舞を見る。瞬間、目が合った。

「!」
「……」

 時間にしてほんの一秒ほど。もしかすると一秒もないが、私には永久に感じられるほどだ。
 中華・名と目が合った私は、まるで雷に打たれたかのような感覚を覚えた。笑った…、のか? 私を見て? それはどういう意味だ? 嘲笑とは受け取れぬが…。様々な考えが頭をめぐる。

「あのー、慶舎」
「っ、はい」
「盃から酒がこぼれてますよ」
「!!」

 徐々に正常な感覚を取り戻すと、衣服が濡れていることに気付く。特に気に入っている服ではないが、濡れたままというのも不快であるし不格好だ。中華・名の舞も終わってしまい、気がつけば舞台では別の舞妓が踊っていた。ならばここにいる意味などあまりない。何より早く着替えたいため、李牧さまに挨拶をしてその場を去った。
 外の冷たい空気は気持ちが良い。涼みながら中華・名の事を思い出していた。舞妓はただ催し物に呼ばれただけだろう。また会える可能性は低い…と、考えていたが、予想だにしない早さで、私は中華・名と再会する事となる。
 それは李牧さまと次の戦について、作戦会議を行っていた際のことだ。

「…という作戦は如何でしょうか」

 李牧さまの作戦には非の打ち所がなく完璧だ。私も他に様々な型を考えてみたが、やはり李牧さまの案が最善だろう。

「簡単に見えますが、いざ実行するには有能な兵が必要です。そこで私に提案があるのですが」
「お言葉ですが、李牧さま。兵は私の私兵で十分かと」
「まあ…最後まで聞いてください。中華・名を慶舎の配下に加えようと思いましてね。中華・名、こちらへ」

 驚く暇もなく、扉の向こうから中華・名が姿を見せた。

「本日より慶舎さまにお仕えさせて頂きます、中華・名字中華・名と申します」
「……お前、ただの舞妓ではなかったのか」
「舞は舞妓である母に少し教わりましたが、ほぼ独学です」
「舞妓の娘…剣はどこで教わった。中華・名字家という武家は聞いたことが無い」
「私の祖父が城にお仕えする兵士でした。幼いころ教わり…それから特に師は…」
「慶舎。そんなに険しい顔をしなくても。中華・名中華・名です、あなたの剣の師は私、と言っても過言ではありませんよ。中華・名の腕は私が保証します。それでも納得できないのならば、手合わせをしてみれば良いでしょう」
「わかりました。…では中華・名、行くぞ」

 李牧さまは私に「頑張って下さいね」と耳打ちし、私に中華・名と訓練所で手合わせするよう促す。何も中華・名の腕を疑っているわけではないが、まさかただの舞妓ではなく、戦兵だとは思わなかった。この作戦に組み込まれるということは、李牧さまからの信頼も厚く、腕も確かということなのだろう。私の配下にしたのは李牧さまの配慮、といったところか。
 訓練所に到着し、私は中華・名と対峙した。舞妓の時とは随分と違う表情で私を見つめる中華・名。戦うにしてはあまりにも衣服が薄く、体を守る鎧の面積が少ない。

「殺すつもりでかかってこい」
「はい!」

 中華・名が腰に携えた鞘から曲刀を抜き、構えを取る。少し腰を落とした後、素早く私との間合いを詰めた。すぐに私も剣を抜いて、それを受け止め驚く。思ったより重い一撃だ。しばし剣を交え、中華・名の力量が計れた所で私は手合わせを終わらせた。

「ありがとうございました。あの…慶舎さま。私を認めていただけますか?」
「ああ」

 中華・名の顔が綻ぶ。それを見た途端、煩いくらいに脈打つ私の鼓動。
 先日の舞では赤い紅をさしていたが、今は薄い桃色の紅をさしており、それがまた受ける印象を違わせているのだと気付く。そんな彼女に見とれていた。

「…慶舎さま? やはり私なんかでは、慶舎さまの配下に相応しくないでしょうか」
「いや、そういうわけではない。少し考え事をしていた」
「そうでしたか」

 中華・名は安堵したように息を吐き、他の兵の邪魔にならぬよう端へ行き座った。私もそれに続き座り、隣の中華・名を何気なく見つめる。しばらくは顔の汗を拭いていた中華・名が、私の視線に気付く。

「どうかしましたか?」
「何もない。ただ…」
「ただ?」
「見とれていた」

 中華・名の美しい瞳が見開かれていく。真っ白な肌も赤く染まった。舞妓をしていれば言われそうなものだが、慣れていないのだろうか。

「そ、え? あ、ありがとう…ございます」

 消え入るような声で、語尾はほとんど聞き取れなかった。

「面と向かって言われたのははじめてです。なんだか…とても、照れますね。ふふふ」

 はにかんだ笑顔も、初な反応も、私を見つめる宝玉のような瞳も、全てが愛おしい。まるで心が満たされるような不思議な感情を抱いた私の手が、無意識に伸びた。手に入れたい。そう思った。
 しかし…伸ばした手を、中華・名はスッと避け、私の手は行き場を失う。

「ご、ごめんなさい。私…触られるのは、苦手で…」
「……」
「決して慶舎さまが嫌だとか、そういうわけではないのです」

 手をじっと見つめると、中華・名はもう一度「ごめんなさい」と呟いた。…堪らない。その汚れのない体と心を、思い切り汚してやりたいという歪んだ感情が芽生える。

中華・名が武功を立てるのが楽しみだ」
「はい。全力を尽くします」

 私は立ち上がり、中華・名に背を向けると歪んだ笑みを浮かべてその場を後にした。

 数日後、私は背後に私兵を、隣に中華・名を従えて戦場へ向かっていた。休みなく進み、到着したのは数日後の夜で、馬や兵の疲れもあり、開戦は明朝からとなる。私は明日の作戦会議と称して、中華・名を自身の天幕へ呼び出した。
 机の上には二つの水筒がある。一つは普通の水だが、一つは強力な催眠作用のある薬草を混ぜた水だ。何も知らない中華・名は無防備にも寝間着姿のまま姿を見せた。至って普通に作戦の確認を進め、途中水筒を差し出す。中華・名はそれを受け取ると、なんの疑いもなく口をつける。

「ん…? 慶舎さま、この水少し変な味がします。腐っているかもしれません」

 本来は連日の戦いで不眠に陥った兵士が少量飲むもので、やはり薬草なので独自の味がする。すぐに目を覚まされては困るため、通常より多く水に混ぜた故、味を強く感じるのだろう。

「……」
中華・名

 効果は、丁度会議を終える前に見え始めた。中華・名は立ったまま体を前後に揺らし、今にも眠りに落ちそうだ。しばらく様子を伺っていると、糸が切れたように倒れ込み寝息を立て始めた。
 私は中華・名の体を抱え、枕に頭を乗せて腰巻きを外す。細くて白い腰が見えた。外した腰巻きを使い、中華・名の両手を頭の上で重ねるときつく縛った。衣服がはだけ、晒を巻いた小さな胸が見える。

「くく…」

 明日のことを考えると思わず笑いが溢れる。狙った獲物は逃さない。気持ちよさそうに寝息を立てている中華・名の隣で、その夜は就寝した。
 朝が訪れても、中華・名は目を覚まさない。触れたり、声をかけた所為で目を覚まされても困るため、静かに支度を整え、戦場へ赴いた。
 簡単に決着がつくだろうと思っていたが、李牧さまが仰っていた通り、相手もなかなかしぶとい。しかし私は部下に指示を出し、ゆっくりと、確実に敵の兵を、将を殺していく。だが敵国の兵は数が多く、すぐに決着がつきそうにもない。そもそも戦いとはそういうものだが。
 日が暮れた頃、私は撤退命令を出した。食事はいい、と告げて天幕へ入る。お楽しみの時間だ。

 中華・名の上に覆いかぶさり、首元に顔を埋めた。女特有の甘い匂いに目眩すら覚える。私は女の経験がないわけではないが、豊富というわけでもない。しかし中華・名の匂いは、今までのどの女より官能的だった。首筋に唇を押し当て肌を味わっていると、中華・名が小さく息を漏らす。

「ん…、ん? え?」

 私は首筋から顔を上げ、じっと中華・名の顔を見た。驚愕、というより、まだ状況を飲み込めていない様子だ。

「慶舎さま…? いくさ、は?」
「初日は私の軍が有利な状況で終わった」
「初日…、私は眠って…? も、申し訳ございません」
「構わん。だが戦の初日に眠りこけたその責任は取ってもらうぞ」
「そんな…! 私、何かおかしっ…ぅ!」

 強引に中華・名の唇に私の唇を重ねる。やっと状況を理解したのか、中華・名は随分と暴れ抵抗したが、私の力に敵うはずもなく。悔しそうに私を睨みつけ、しかし目尻には大粒の涙を浮かべる姿は扇情的で私は酷く興奮した。

「面倒だ。切るか」
「!」

 晒を取るのが億劫に感じた私は、護身用の小刀を晒に宛てがった。暴れていた中華・名も、小刀押し当てるとどうなるのかわかったのだろう。ピタリと動きを止めた。
 晒を切り、左右に広げて乳房を露出させると、中華・名は顔を真っ赤に染めた。口では嫌だとか、やめてくれと言うがじっくりと性感帯を愛撫すれば、やがて甘い息を吐き身を捩り始めた。
 中華・名の体が良くなってきたところで、私は衣服を脱ぎ男根を女陰に添えた。

「ひっ…慶舎さま、お願いします…やめてください」
「断る。先程、私は責任を取らせると言ったはずだが」
「なんでも言うことを聞きます。だから…」
「なんでも?」
「はい…」

 一瞬動きを止めた。勿論、中華・名の交渉に乗るつもりなど毛頭ない。少しの希望を見出した中華・名の瞳。その瞳が、恐怖と、絶望に染まる瞬間が楽しみだ。私は、ふ、と笑う。中華・名の表情も少し和らいだ。

「ならこの状況を受け入れることだな」
「ッあああ!!」

 中華・名の中へ一気に挿入した。そんなことをすれば女は痛がるとわかっているが、全く馴染まず、いつまでも痛がる中華・名を不思議に思い、結合部を見て納得した。
 純血の血が混じっていたからだ。これだけの美貌を持つ女─中華・名─が乙女─処女─だったとは。

「ハハハ…! どんな気持ちだ、中華・名
「うう…」

 思っていた通り、中華・名の瞳は恐怖と絶望に染まっている。だが、それでも尚…中華・名は美しい。
 中華・名の中は先程まで純血を守っていた体にふさわしく、とても窮屈だった。昨晩から我慢していた私も、長くは持たなさそうだ。

「痛い、痛い…!! どうして…うう」
「っ…中に、出す」
「!」

 虚ろな瞳で私を見ていた中華・名の瞳が見開かれる。何を言いたいかは予想がつく。

「な」

 私は中華・名の言葉を遮る。

「中はやめてください、と? 私がそれを受け入れる…とでも? フ、私の子を孕めば更に面白いことになるな! う…ッ」
「いや、いやああ!」

 腰を打ち付け、中華・名の中で果てた。昨晩しなかったせいか、随分と大量に出たのがわかった。

「いや、いや、いや!! 今すぐ抜いて!!!」

 やはり中華・名は舞ってこそだ。身を捩り泣き叫ぶ中華・名の姿。その髪が、汗が。初めて会ったときのように、美しく舞っていた。

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