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「ひどい、私だけ愛してるって…あの言葉は嘘だったの?!」 名前はわぁ、と膝から泣き崩れた。瞳には大きな涙が溜まり、今にも零れ落ちそうだ。 「オイラはいつだってお前だけを愛してる、本当だ、うん!」 デイダラが必死に取り繕うも、名前は手で顔を覆って聞く耳を持たずといった様子だ。 「じゃあ、あの女は何なのよ?!」 そ、それはと言葉に詰まるデイダラ。そんな二人のやり取りを、静かに聞いていたイタチが、読んでいた本を閉じ、盛り上がる名前とデイダラに水を差さないよう控えめな態度で問いた。 「…何をしてるんだ? 名前」 ニコッと笑って「何か?」と言わんばかりの名前に、イタチは言葉に詰まった。成人を間近に控えた、十八歳の女がする遊びではない。それに付き合う十九歳の男というのも考えものだ。 「デイダラ、名前を汚すな。名前も名前だぞ、そんな遊びをするんじゃない」 名前の柔な頬がぷくっと膨らむ。その頬をつんつんと突付き、イタチは苦笑いを浮かべた。名前は膨らんだ頬を潰されまいと、口元にぐっと力を入れる。少し空気が抜け「ぶっ」と音が鳴った。 「大人のおもちゃで遊べばいいんだ!」 名前の爆弾発言に、イタチは絶句し、鬼鮫は飲んでいた茶を噴き出した。 「それは…名前、その、意味はわかっているのか?」 愕然とした表情で、名前が大人だったことにショックを隠せないデイダラの肩に、イタチがぽんと手を置いた。 「大人のおもちゃ、そろそろ新しいのが必要だから、買ってこよっと。じゃ、また後でね」 デイダラ、イタチ、鬼鮫の三人は楽しげな名前の後ろ姿を黙って見送ることしか出来なかった。そんなに使い込んでいるのか、とデイダラはますます落ち込みを見せる。名前と入れ替わりにサソリが入ってきて、そんなデイダラを見て首を傾げた。 「何だ? 随分落ち込んでやがるな、デイダラ」 ほぼ放心状態でデイダラが呟く。サソリは「そんなことかよ」と鼻で笑った。 「今さっき、新しいのを買いに行ったぜ…」 鬼鮫は茶で濡れてしまった装束をハンカチで拭いながら言う。尤も、茶は殆ど装束が吸ってしまっていて、ハンカチで拭ったところでどうにかなるようなレベルではなかったが。 「それにしても名前さんは本当に意味を知っているのでしょうか?」 名前は純情で清純なイメージだが、暁に加入した数年前以前のことを誰も知らないし、聞いたこともない。もしかして物凄く経験豊富だったりして…とデイダラが青ざめる。 「そんなに欲求不満なら、俺が相手してやるものを」 それだけは絶対に許さない、とデイダラはサソリを睨みつけた。サソリは何食わぬ顔をしている。 「だがどうする? 一番ハードなやつを買ってきたら」 想像しただけでここまで落ち込めるものか? という程に肩を落とすデイダラを見て、イタチがふっと笑う。 「まぁ、女性にリードされるのも悪くはないぞ、デイダラ。俺はいつもリードする側だがな」 そして夜、食事の前に名前は帰ってきた。手には黒いビニール袋。あの中に、アレが入っているのかと思うと、名前がどこへ行ったかを知っているメンバーは複雑な心境だ。名前は、熱い茶を飲んでいた角都に駆け寄り、ニコッと笑いながら言い放つ。 「角都~! 大人のおもちゃ買ってきたから、経費で落としてね!」 先ほどの鬼鮫より激しく、茶を噴き出す角都。違うのは、濡れた装束など全く意に介していないところだ。名前を叱り飛ばしながら、ダンッと強くテーブルを叩き立ち上がった。 「大丈夫だって~、なんとかなるって。そんな家計を圧迫するほどのものじゃないから!」 名前は悲しげな表情を浮かべて、「だって…」と俯いた。 「これなら皆で遊べると思って」 名前はデイダラが落ち込んでいることなどつゆ知らず、袋に手を突っ込み中の物を取り出そうとした。慌てて角都が止めに入る。 「待て! ここで出さなくていい。部屋に持っていけ」 そう言って名前がかざしたのは、猫のイラストが描かれた箱だった。でかでかと「トランプ」の文字が左上に書かれている。一同はぽかんとそれを眺めることしか出来ない。 「大人のおもちゃって…トランプのことだったのか…」 拍子抜けするメンバーをよそに、名前はにこにこと笑いながらトランプを開ける。裏に描かれたファンシーな猫が愛らしいトランプだった。 「何のこと? 皆でいつも七並べとかポーカーとかするでしょ。トランプ、結構ボロボロだったから新しいの買ってきたの。可愛いでしょ、猫ちゃんトランプ」 角都がため息混じりに言う。 「大人のおもちゃというより、大人の遊び、だな…」 そして今夜は名前が買ってきた「(名前曰く)大人のおもちゃによる、大人の遊び」が行われるのであった。 |
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2021.5
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