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珍しくなかなか眠りに落ちることの出来ない名前は、思い切って布団を出た。向かうはキッチン。温かな飲み物でも飲めば、リラックスして眠れるだろうと思った。リビングからは光が漏れていて、誰かが起きているのがわかる。中に入ると、イタチと鬼鮫が酒を飲み交わしている所だった。 「あれ、二人共寝れないの?」 鬼鮫はすっと椅子から立ち上がり、鮫肌を片手に部屋を出て行ってしまった。 「お酒、私も一口飲んでみたい! 鬼鮫、もう飲まないんでしょ? もーらいっ!」 名前が鬼鮫の飲み残しに手を伸ばすと、サッとイタチはコップを取り上げた。 「これは酒だ。未成年の名前に飲ませるわけにはいかないな」 名前は不服そうに頬を思い切り膨らます。イタチはニコッと笑って、その頬を押して中の空気の行き場をなくした。「ぶ」と名前の口から空気が漏れる。 「酒は大人の嗜みだ。名前は後二年、だな」 満遍なく温まるよう、レンジではなく鍋で温めたホットミルクを、名前の前に差し出す。名前はさっそく口をつけて、程よい温かさのホットミルクを堪能した。 「でもイタチがお酒を呑むなんて、ちょっと意外だなあ」 イタチが珍しく口を滑らせ、更には表情にも出てしまった。普段のイタチなら考えられないことだ。それだけ、名前に心配をかけたくないということではあるのだが。 「イタチ、嫌なことがあったの?」 イタチは今日も病のせいで吐血をしていた。それも大量にだ。死期が近いと自分でも感じた。そんな夜に酒を呑むことに鬼鮫は難色を示したが、残り少ない命だと言えば渋々了承し、共に飲んでいたというわけだ。 「名前が心配することじゃない。俺なら大丈夫だ」 心配しては、いつも柔に微笑むイタチを名前はいつも心配していた。 「いつもそうやって私には何も教えてくれない…。私ってそんなに頼りないかな? 私がイタチみたいに強くないから?」 名前がイタチの顔を覗き込みながら、ふくれっ面で言う。イタチはじっと名前の瞳を見つめた後、優しく彼女の頭を撫でた。 「あー! また子供扱いして…。私が言ってるのは至極当然のことなんだからね!」 イタチの長いまつげが伏せられる。吐血をした日の晩は、いつもそうだった。サスケに万華鏡写輪眼を開眼させるまで、死ぬわけにはいかない。だが、病に蝕まれ吐血を繰り返すと、ふと不安になって一人でいることすら怖くなってしまう。 「なら、一緒に寝ようよ」 イタチは耳を疑った。自分を心配してのことだとは理解している。だが、名前の言葉が信じられなかった。 「しかし…名前、それは…いいのか?」 男の部屋に来るという覚悟が、名前にあるのか。定かではなかったが、名前は「私だって一人で寝たくない時はあるよ」と笑った。行こ、と先にリビングを出て行く名前の後ろ姿を追いながら葛藤した。 「(俺だって男だ…。名前、同意の元とみなすぞ…?)」 部屋に到着し、厳重な封印を解いて中に入る。初めてイタチの部屋に入った名前は、本棚いっぱいに並べられた忍術書を見て「うわ、凄い」と感嘆の声を上げた。 「読むか?」 イタチの手首を掴み、布団に入る名前とイタチ。イタチの布団は太陽の匂いをめいっぱい吸い込んでいた。 「おひさまの匂い。イタチの匂いだね」 名前は掛け布団を被り、目を閉じた。ホットミルクのお陰で体も温まったし、すぐに眠れるだろう。早くも睡魔が名前を襲った。 「…ん?」 顔に息がかかり、名前は目を開ける。名前の目に飛び込んできたのは、イタチの顔だった。 「わ! びっくりした! ど、どうし…んっ?!」 イタチは優しく名前の唇に自身の唇を押し当てた。名前を優しく包むような、愛に満ちた口付けだ。 「イタ…チ? どうしたの…?」 かなり驚いている様子だが、名前にとっては当然のことではなくとも、イタチにとっては至極当然のことだ。イタチは優しいほほ笑みを浮かべる。 「…嫌か?」 そう問いかければ、名前は「嫌じゃないけど…」とは言うものの、困惑は隠せないようだ。イタチは名前が戸惑っているのを理解したうえで、そうか、と一言発した後口付けの嵐を降らした。ちゅ、ちゅと角度を変え、啄むような甘く優しい口付け。 「ん…ふぅ」 艶めかしい声は、普段の名前からは想像もつかない。きっと「みんなの名前」である彼女のこんな声を聞いたのは、イタチが初めてだろう。そう考えると興奮もひとしおだ。唇を塞いだまま、名前のシャツの中に手を入れると、名前は身をよじって軽く抵抗した。 「ん~!!」 少しだけ悲しい目をしたイタチに気付かず、名前は今宵優しい狼に襲われた。 |
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2021.5
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